雉虎白note

ポップカルチャーぐうたら

これはもうポップアルバムと呼んでいい Sudan Archives『Athena』

f:id:shirokijitora:20201218034027j:plain

 Sudan Archives(スーダン・アーカイヴス)のデビューアルバム『アテナ』が想像以上にポップだった。

 2年前、スーダン・アーカイヴスの「Come Meh Way」(2017)という曲が、海外音楽メディアで、今週のベストトラックとして取り上げられていた。

 あまりのサウンドのアフリカ民族っぽさに、スーダン出身のアーティストだと全く疑ってなかったのだけど、実際はガーナに先祖のルーツを持つアフリカ系アメリカ人だった。彼女は17歳の時にスーダンというニックネームをもらい、その後にアフロ音楽にのめり込んだらしい。

 初めて曲を聞いた時は、自分の範囲外の音楽でピンとこなかったんだけど、なんとなく耳に残ったので、とりあえずプレイリストに入れて聞いてるうちにハマっていた。

 その後、彼女はStones Throwから2枚のEPをリリース、アンダーグラウンドでヒットして、コーチェラなどの大型フェスにも出るようになった。

 今回のデビューアルバムを聞くと、アート寄りの癖の強い音楽をやっているように見えたスーダンアーカイブスが、なぜ門外漢の僕の耳にひっかかり、コーチェラに出るまで売れたのか分かる気がする。

 「Come Meh Way」が収録された1st EP『Sudan Archives』(2017)や2nd EP『Sink』(2018)は、アフリカの民族音楽R&B、エレクトロニックミュージックをミックスする、かなり実験的な印象の作品だった。しかし今回のデビューアルバム『Athena』では、耳馴染みの良いR&Bシンガーとしての一面を開花させている。

 それは「Come Meh Way」にもあった要素なのだが、それが今までは実験的なトラックの後ろに隠れていたように思う。今回のアルバムでは歌にフォーカスし、ポップに響くように、うまくバランスを変えてきた印象だ。彼女の歌声には人を惹き付ける不思議な魅力がある。それが存分に活かされ、普通にポップアルバムとして楽しめるほど、聞きやすい作品になっている*1

 アルバムにはバラエティ豊かな曲が収められている。4曲目「Down On Me」のボーカルは、まるでビヨンセのようなしなやかさと力強さがある。11曲目「Stuck」のLos Retros(ロス・レトロス)によるトラックは、エリカ・バドゥのようにジャジーでディープ。10曲目の「Glorious」は、アイルランドのジグから影響を受けたようなリズムと、不思議な歌・ラップが見事に融合している。

 今作は外部プロデューサーとの共作が多い。Danny Brownとの仕事で知られるPaul White(ポール・ホワイト)、The XX、King Krule、SamphaのRodaidh McDonald(ロディー・マクドナルド)、Ariel Pink、Julia HolterのKenny Gilmore(ケニー・ギルモア)、チルウェーブの風雲児Washed Out(ウォッシュト・アウト)など、ヒップホップからエレクトロニック、インディーロック系まで多岐に渡る*2

 アルバムの中で一番意外だったのは、Paul Whiteによる12曲目「Limitless」。シルキーでスムーズなトラックと彼女の歌声は、スーダンアーカイヴス史上最もメインストリームに接近した瞬間だろう。

 「Limitless」を聞いて、僕はマーベル映画『ブラックパンサー』(2018)の主題歌「All the Stars」を思い出した*3。ケンドリック・ラマーによるブラックパンサーのインスパイア・アルバムも、アフロ音楽とR&B・ラップの融合がテーマだった。そういえば、スーダンアーカイヴのアルバムタイトル「アテナ」はギリシャ神話の女神の名前だ*4。アフロフューチャリズムとギリシャ神話。ブラックパンサースーダン・アーカイヴス。そういえばBeychellaのビヨンセも。2010年代末の奇妙な同時代性を感じる。*5

*1:メインストリームに進出しているフラメンコR&BのROSALÍA(ロザリア)くらい売れてもおかしくないと思う。

*2:最近はBrainfeederのTeebsなど、LAビートシーンとのコラボも活発。ちなみに、Teebsのスーダンアーカイブスが一緒にやったアルバムに入っている、Panda Bearとの「Studie」って曲がお気に入りです。

*3:Kendrick LamarとSZAによる楽曲。

*4:妊娠した妻を丸呑みにしたゼウスの頭を割ったところ、武装した姿で産まれたのがアテナ。理性的で気高く思慮深いことで知られる反面、勝ち気でプライドが高くわがままな一面もあった。一卵性双生児の双子であるスーダンアーカイヴスは、アテナの2面性をアルバムのテーマに据え、自身の人生や価値観と重ね合わせた。

*5:個人的に好きな曲は、M2「Confessions」M10「Glorious」M12「Limitless」あたりがわかりやすくポップで気に入ってるんだけど、もともとの民族実験音楽みたいな感じが好きだった人がこのアルバムのことをどう思ってるんだろうと、ちょっと気になった。。