雉虎白note

ポップカルチャーぐうたら

King Princess『Cheap Queen』超モダンな音響デザインが生んだもの

 「1950」という曲がある。ピッチフォークが「ポップソングとして完璧に近い」と評したKing Princess(キング・プリンセス)のデビュー曲。昨年の春頃、「あなたを待っている」と繰り返すコーラスに夢中になった。その時は彼女が、まだ10代でクィアだとか、レコーディングエンジニアの家庭に生まれたとか、まったく知らなかった。ただ、とんでもない才能が出てきたなと思った。

 「1950」は、トッド・ヘインズ監督の名作『キャロル』(2015)の原作でも知られている、パトリシア・ハイスミスの小説『The Price of Salt』(1952)にインスパイアされて作られたらしい。レズビアンの恋愛をリリックに忍ばせつつも、万人に向けられた愛の歌、といったところだろうか*1。キング・プリンセスは、そういったテーマを誠実に歌い上げ、ピアノとギターのシンプルな演奏を、モダンなベッドルームポップにアップデートしてみせた。

 キング・プリンセスはその後EP『Make My Bed』(2018)をリリース。マーク・ロンソンやフィオナ・アップルとのコラボも果たし注目を集める。そして2019年10月、デビューアルバムをリリースした。

 キング・プリンセスのデビューアルバム『チープ・クイーン』は想像以上だった。ローファイ・ベッドルームポップを軸にメインストリームが狙えそうな才能という点で、たとえばマギー・ロジャース(Maggie Rogers)やクレイロ(Clairo)と比べられそうだけど、キング・プリンセスは彼女たちとはかなり違っている。

 今回のキング・プリンセスは、メインストリームのポップクリエイターたちが持っている感覚で、楽曲を制作しているように思えた。クラシックなロックを基調としている楽曲でも、ピッチシフトされたコーラスや、細やかにデザインされたサンプルの配置はとても現代的。そして音質がとにかくめちゃくちゃ良い。本人がレコーディングスタジオで育った、というくらいだから、相当なこだわりがあるのだろう。ベテランミュージシャンのような貫禄と気品が、録音から滲み出ている。

 アルバムから特におすすめの曲は、まず先行シングルとしてリリースされていた「Ain't Together」。以前は、ベッドルームポップのローファイ寄りな音響デザインだったものが、今回のアルバムではよりメジャー感のあるハイファイなサウンドへと変化した。そしてこの曲は、ファーザー・ジョン・ミスティ(Father John Misty)がドラムを叩き、ビートルズ風のメロトロンも鳴るクラシカルなバンドサウンドだが*2、モダンなミキシングによって、しっかりと現代のポップミュージックとして成立している。

 そして、アルバムのハイライトであるダンスポップナンバー「Hit The Back」。シンプルなコード進行とキャッチーなメロディー。使われている音のチョイスはクラシカルだが、やはり現代的な音響デザインによって、Robynを彷彿とさせる領域にまで達している。「Dancing On My Own」で幕をあけた2010年代を「Hit The Back」が締め括る、といったら言い過ぎだろうけど、この曲はどん底の気持ちを昇華する正真正銘のアンセム*3

私って人生で最高のパートナーでしょ?

そんなのは勘違い

背中をなぐって

リスペクトが欲しい

そばにいるのに

私はペットでいい

*1:その方面に明るい方の解説などがあればぜひ教えてほしいです。

*2:キングプリンセスはレッドツェッペリンTレックス、ジャックホワイトが好きだそう。

*3:カリスマ洋楽ちゃんねるさんが歌詞全訳していますのでぜひ。

www.charismayogaku-ch.com