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ポップカルチャーぐうたら

Kanye West『JESUS IS KING』賛否分かれたゴスペル・ラップ・レコード

 カニエ・ウエストのニューアルバム『ジーザス・イズ・キング』が発表された。2018年の5週連続リリースから数ヶ月後、『Yandhi』というタイトルで発表されるはずだったニューアルバムは、何度もリリース延期を繰り返した。カニエ信者の僕からすれば、延期なんて毎度のことなのでどうってことないのだが、お蔵入りにしたというニュースにはさすがに参った。

 ほとんど完成していたように思える『Yandhi』だったが、カニエの新たな「信仰心」がリリースするのを認めなかったよう。カニエはこの1年ほどの間に、かなり熱心なクリスチャンへと変化した。今回ようやく発表された新作『JESUS IS KING』は、彼のキリスト教への信仰心が爆発(暴発)した作品だった。

 Kanye Westサウンドの核を担う要素に「声」がある。「声」をどのように使うのか。早回しでピッチアップされたボーカルサンプル、オートチューン、ハーモナイザー。カニエはあらゆる声を的確に配置し、誰も聞いたことのない音楽を作り続けてきた。

 「Ultralight Beam」(2016)以降、新たな声のアプローチの矛先はゴスペルに向いていたように思う。初期の名曲「Jesus Walks」(2004)もそうだったように、カニエとゴスペルの相性は抜群だ。

 今年はじめから毎週のように開催していた「サンデー・サービス」では、数十人規模の聖歌隊を従えて、様々なアーティストの楽曲をゴスペル調にアレンジして演奏していた。毎週のようにタイムラインに流れてくる映像には、見たことのない迫力と祝祭感があり、このままアルバムが出たらすごいことになるな、と期待していた。

 アルバムは、期待通りゴスペルで幕を開ける。そして2曲目「Selah」では、『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』(2010)以降、カニエのシグネチャサウンドとなった、攻撃的なドラミング(映画の戦闘シーンのようなあの太鼓とかけ声)と、ゴスペルの融合を試みている。ハレルヤのコーラスとカニエの声、ドラムの見事なアンサンブル。アゲまくった勢いそのままに、カニエ流ゴスペルアルバムへとなだれこんでいくのかと思ったが、実際はそうではなかった。

 アルバムの中で、ゴスペルの聖歌隊を全面に出しているのは冒頭の2曲のみ。部分的にゴスペル要素を組み込んだ4、7、8曲目もあるが、それ以外はゴスペルのサウンドとは認識しづらい曲だった*1

  しかし、リリックを聞けばこの作品が完全なゴスペル・ラップ・レコードだとわかる。今回、カニエがアルバムで表現したかったことは「神への信仰心」その一点だったよう。下品なギャグはもちろん、いつもの言葉遊びすら控えめで、ひたすら神の話をしている。そしてそのテーマは、サウンドの方にも影響しているように思う。

 曲中の感情の起伏に応じて、アレンジに歪みが生まれ、バランスが崩れたようになるのが、カニエ作品の醍醐味だと思うのだけど、今回のアルバムではそういった部分は控えめに感じた。サウンドの爆発力より信仰心を煽る歌詞の方が曲をアゲるのに有効、と判断したのかもしれない。サウンドは初期作品のようにウェルメイドで、『MBDTF』以降のぶっ壊れ感が減衰したように感じた*2

 もしそういった新しいバランスや*3、宗教色の強いリリック、カルト的な胡散臭さが気に入らなかったとしても、至福の瞬間は何度も訪れる。「Follow God」はこれぞカニエというサンプル使いだし、アーバンテイストな「On God」の折り重なるシンセのアンサンブルは見事だ*4。「Everything We Need」のTy Dolla $ignのコーラスハーモニー、「God Is」のカニエの切実な歌声は感動を誘う。そして「Use This Gospel」のワンテンポ遅れて入るKenny Gのサックスは、誰もが指摘するアルバムのハイライトだろう。

  しかし正直に言うと、カニエの作品では『808s & Heartbreak』(2008)以来のピンとこないアルバムだった。いつもなら、100点満点のところ5億点出してくれるのがカニエなのだけど、今回は1千万点くらいの感じだ。このしっくりこない感が、あとからじわじわ化ける可能性も十分あるのだが*5。もし『Yandhi』のリーク音源に入っていたXXXTentacionのヴァースや、Teyana TaylorのWe Got Loveリミックス、エンディングの強烈なギタートラックがあったなら、などとついつい考えてしまう。

 カニエはクリスマスに別のアルバムを用意しているらしい。もしかしたら、よりSunday Serviceっぽいゴスペルアルバムになるかもしれない。カニエのことだから全く信用できないんだけど、それを楽しみに気長に待つことにする。

*1:コーラスや曲構成などを、カニエ流ゴスペルとも言えるけど。

*2:新しい要素が少なく、カニエが過去の作品で用いたサウンドを再利用する構成は、前作『Ye』(2018)から続いている。「Follow God」の最後の叫び声は『Yeezus』(2013)からのものだし、「Jesus Is Lord」のブラスの音は「Touch the Sky」(2005)でのカーティス・メイフィールドからのサンプリングを連想させる。

*3:Mike Deanによるミックスのバランスも不思議だ。ラフミックスのような粗い生々しさを感じるが、もしかしたらサンデーサービスの音像を再現するサウンド配置なのかもしれない。

*4:Pi'erre Bourneがcoプロデュース。

*5:808sは僕の中で大名盤になった。