雉虎白note

ポップカルチャーぐうたら

突然変異のその先へ FKA Twigs『Magdalene』

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 The Weeknd(ザ・ウィークエンド)が『House of Baloons』(2011)で世に放ったオルタナティブR&Bは、2010年代を代表するサウンドになった。Dev Hynes(デヴ・ハインズ)との共作でSolange(ソランジュ)やSky Ferreiraスカイ・フェレイラ)が台頭、Frank Ocean(フランク・オーシャン)が衝撃デビューを果たし、Beyonceビヨンセ)がセルフタイトルアルバムでメインストリームに持ち込んだオルタナティブR&B

 そのオルタナティブR&Bから”オルタナティブ”の冠が外れていく過程で、突然変異のように現れたのがFKA Twigs(FKAツイッグス)だった。彼女の音楽は、それまで存在しなかった超最先端のサウンドで、そもそもR&Bとカテゴライズしていいのか、音楽メディアも困惑していた*1

 FKA Twigsを一躍有名にしたのは『EP2』(2013)に収録された「Water Me」という曲。カニエ・ウエストの『Yeezus』(2013)に抜擢、ミックステープ『&&&&&』(2013)も話題になり、時の人となっていたArca(アルカ)をプロデューサーに迎えた曲で、不気味かつ人工的なサウンドとFKA Twigsのささやくような歌声のミックスが衝撃的だった。突如現れた才能に、彼女こそ音楽の未来だとみんなが注目していた。

 そんな中リリースされた1stアルバム『LP1』(2014)は、それまでの実験的なエレクトロニックに、ポップ要素の追加を試みた作品だった(それはレコード会社の意向だったよう)。プロデューサーにAdeleの作品で知られるPaul Epworth(ポール・エプワース)や、Lana Del ReyやBruno Marsを手がけるEmile Haynie(エミール・ヘイニー)等を起用、さらにDev HynesやSampha(サンファ)、Clams Casino(クラムス・カジーノ)等の実力派も参加した。

 しかし蓋を開けてみれば、多少聞きやすくなった程度で、彼女の作風が揺らぐような大変革はおこらなかった。濃密なエレクトロニックスの音像と彼女の歌声からなるアートが強固なものだと証明することになり、その存在は神格化し始める。

 ゴシップサイトにFKA twigsが登場するようになったのはたしかその頃だったはず。Robert Pattinson(ロバート・パティンソン)とのデートをパパラッチに追いかけられたり、彼女のベイビーヘアーが流行したりして、ちょっとしたスターになっていた。

 彼女の影響力はかなり大きかったと思う。1stアルバムに収録された音は、2010年代後半のアート寄りのR&Bアーティストの雛形となった。例えば映画『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)の主人公クリードマイケル・B・ジョーダン)の彼女(テッサ・トンプソン)はミュージシャンという設定だったが、曲もビジュアルもFKA TwigsにKelela的な要素を加えたような存在だった。 

 今回約5年ぶりにリリースされた2ndアルバム『Magdalene』は、濃密な実験的エレクトロサウンドとさらなるポップ化の両立に成功している。その2つの要素は本来相反するものだが、今回も奇跡的にバランスを保っている。しかも今作は歌から感情がダイレクトに伝わる、直感的に楽しめる要素が加わった。

 アルバムの2曲目「Home with You」は、ストレートにエモーショナルな歌を聞かせるナンバー。以前の曲では、人工的でロボットのよう振る舞い、人間的なものを拒否してるようにすら思えたのに、大違いだ。この曲のコーラスは深い情が感じられて感動的だった。

あなたが孤独だって知らなかった

そう言ってくれたら、あなたと一緒にいられたのに

あなたが孤独だって知らなかった

そう言ってくれたら、あなたのために丘を駆け下りたのに

 

 3曲目「Sad Day」は、恋人の心が離れていく心情を歌った曲。Benny Blanco(ベニー・ブランコ)、Nicolas Jaar(ニコラス・ジャー)、Skrillexスクリレックス)、Cashmere Cat(カシミア・キャット)、Noah Goldstein(ノア・ゴールドスタイン)、Koreless(コアレス)という豪華メンバーで制作され、FKA twigsのトレードマークである複雑なエレクトロビートと壮大な曲構成が炸裂している。

 また、まだ公開されていないが、この曲のMVはHiro Murai(ヒロ・ムライ)が監督するらしい。

 アルバムの中で異色なのが、ゲストにFuture(フューチャー)を迎えた「Holy Terrain」。プロデューサーにSounwave(サウンウェイブ)とKenny Beats(ケニー・ビーツ)が入ったトラップものになっている。Jack Antonoff(ジャック・アントノフ)が作ったであろうキャッチーなメロディーとFutureのラップも相まって、他の曲から少し浮いている印象はあるものの、FKA twigsのアートフォームが揺らぐようなことは決してなく、アルバムのスパイスとして新鮮な印象を残している*2

 最後のトラックである「Cellophane」が、このアルバムのハイライトだろうか。先行シングルとして一番最初に公開されたこの曲は、最小限に抑えられたサウンドのテクスチャとFKA twigsの歌だけで構成されている*3。祈るような繊細な声で、びしょぬれになっているように歌い上げる姿は、とにかく溜息が漏れるほど美しい。

あなたがそこにいると感じたいだけ

愛を分かち合う必要なんてない

やってみるけど、圧倒されてしまう

あなたがいなくなったら、もう誰もいない

 突然変異のように登場したFKA twigsは、ついに次世代のポップの先駆者になった。今作で彼女は音楽シーンのトップに躍り出たと言っていいかもしれない。このアルバムは2010年代最後の名盤として、きっと歴史に残るだろう。

*1:FKA Twigs本人もR&Bと言われることに違和感を示していた。

*2:SUBLYRICSに歌詞の和訳ありますのでぜひ(いつもありがたい!)

*3:プロデュースはJeff KleinmanとMichael Uzowuru!!